例によって引き込まれる展開。上巻を読み終わって待ちきれずに下巻へ突入。既にぱらぱら立ち読みしていて知っていたのだが、浮世絵三部作などに登場する美術探偵(?)塔馬が登場してくるところなど、わかっていても「おぉ〜」と一人感激してしまった。電話の直後の由利子の独白など、よくある台詞なのに、のせられてしまう・・・キャラが立っているが故の強さだ。
由利子と塔馬、アジム、杉原で、オランダ、フランス、日本と舞台を変える殺人事件の展開を最後まで勢いよく読ませる高橋節は健在、というところでファンとしては満足満足。惜しむらくは、犯人候補の主要登場人物が一人最後に残ってしまう点、そして由利子のその後があまり明るく(というかはっきりと)描かれなかった点。このため、それまでの爽快感に比べ、やや寂しい読後感だった。
物語の横糸ととなる、画家ゴッホの自殺にまつわる謎に関しては、ほとんど知識を持ち合わせていなかったので、前半のマーゴの論文の形を借りた筆者の主張を、なるほど、と読んだ。生前に1枚しか絵が売れなかったなども知らなかったので、僕にとっては、自殺よりもその方が本当に謎に思えるし、兄弟の確執で埋もれていたのだとすれば、恐ろしいことだ。ラストの、マーゴ説を否定する別論立ては、死していく兄、そう仕向けてしまったことを悔やむ弟、と、そうあって欲しいという作者の思いか。
ラベル:高橋克彦